乾杯の音が、私の世界を壊した夜。
笑顔の先にあったのは、愛ではなく裏切り──。
“会社の飲み会は恋の一次会だった”──乾杯で始まる裏切りの夜
「お疲れさま〜！」
その夜、グラス同士が軽くぶつかる乾いた音が、私の胸をざわつかせた。
金曜日の会社の飲み会。彼はいつもより少しオシャレなネクタイをして、笑顔もいつもより柔らかかった。
だけど、その笑顔の行き先が私ではないこと、私は直感でわかっていた。
私の隣ではなく、斜め向かいの女性を見て笑っていたから。
一次会の席では、仕事の話よりもプライベートな会話が多かった。
私は隅の席から、彼の横顔を盗み見ていた。
彼の笑い声が、こんなにも耳障りに感じたのは初めてだった。
ときどき、彼女が彼の耳元で何か囁く。
そのたびに彼は、少し照れたように笑う。
周囲は酔っていて気づかない。でも、私の目だけは、ごまかせなかった。
――乾杯で始まった裏切りの夜。
そう気づくまで、時間はかからなかった。
◆◇◆ 二次会に消えた二人 ◆◇◆
一次会が終わる頃、彼は「ちょっと同僚と二次会行ってくる」と言った。
それだけなら、よくある話。けれど、一次会の会場を出る彼の視線の先には、例の彼女がいた。
他の人たちはカラオケに行くと言っていたのに、二人は違う方向へ歩いて行った。
私の心は、重く沈んだまま動けなかった。
――これは、偶然じゃない。
頭の奥で、そんな声が響いた。
◆◇◆ 探偵に電話する夜 ◆◇◆
帰宅しても、眠れなかった。
彼のスマホの位置情報はオフになっている。電話をしても出ない。
真っ暗な部屋で、私はスマホを握りしめた。
気づけば、検索窓に「不倫 調査 探偵」と打ち込んでいた。
最初に出てきた探偵事務所の番号をタップする。
深夜なのに、落ち着いた女性の声が応答してくれた。
「…主人が会社の飲み会のあと、連絡が取れないんです」
声が震えた。探偵の担当者は、静かに話を聞きながら、状況を整理してくれた。
◆◇◆ 初めての探偵事務所 ◆◇◆
翌日、探偵事務所の応接室に入った瞬間、想像とは違う明るい雰囲気に少し驚いた。
壁には依頼者からの感謝状が並び、コーヒーの香りが漂っている。
担当の男性は、柔らかな声でこう言った。
「浮気や不倫の調査は、誰にでも起こり得ることです。恥ずかしいことでも、珍しいことでもありませんよ」
その言葉に、張り詰めていた心が少しだけ緩んだ。
私は泣かないと決めていたのに、気づけば涙が頬を伝っていた。
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◆◇◆ 尾行の始まり ◆◇◆
調査初日。
彼はまた金曜日に飲み会だと言って出かけた。
探偵の尾行が始まる。
一次会のあと、やはり例の彼女と二人で抜け出した。
人通りの少ない裏道を歩き、タクシーを拾う。
行き先は、繁華街の外れにある小さなバーだった。
カウンター席で並んで座り、彼女が笑うと彼はその手にそっと触れる。
探偵がカメラのシャッターを切る音が、決定的な証拠を刻んでいく。
その後、二人はビジネスホテルへ消えていった。
玄関前で振り返り、短くキスをする姿も、しっかりと記録された。
◆◇◆ 裏切りの夜明け ◆◇◆
報告書を受け取った日は、胸の奥が凍りつくようだった。
何ページにもわたる写真と行動記録。
飲み会が“恋の一次会”だったことが、全て証明されていた。
証拠写真をめくる指が、途中で止まった。
そこには、彼が彼女の髪に手を触れる瞬間が写っていた。
優しい表情をしていた。…私には、もう見せてくれない顔だった。
怒りと悲しみ、そして少しの諦めが、心の中で渦を巻く。
この感情の行き先はひとつしかない──前へ進むこと。
探偵は「これだけあれば、慰謝料請求も有利に進められます」と静かに言った。
私は深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。
◆◇◆ あなたへ伝えたいこと ◆◇◆
会社の飲み会は、仕事の延長線上と思っていた。
でも、その夜が裏切りの入り口になることもある。
あなたが今、同じ不安を抱えているなら、ひとりで抱え込まないでほしい。
探偵事務所は、怖い場所ではない。
むしろ、心の支えになってくれる存在だと、私は知った。
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