“熱いシャワーで流せないもの”──帰宅後に漂う見知らぬ不倫の香り

「シャワーで流しても消えなかったのは、香水ではなく裏切りの痕跡だった──」

その夜、妻はいつもより遅く帰宅した。

「残業で疲れた」と笑顔を見せながら玄関をくぐったが、その笑顔はどこか不自然で、胸に小さな違和感が芽生えた。

そして彼女は靴を脱ぐと、まっすぐ浴室へ向かい、熱いシャワーの音を響かせたのだった。

確かに、仕事で疲れたときにすぐにシャワーを浴びたい気持ちはわかる。

だが、その日だけは違った。

まるで「すぐに洗い流さなければならないもの」があるかのように、急いで浴室に飛び込む姿が目に焼きついて離れなかった。

◆◇◆

シャワーを終えた妻は、すっきりした顔でリビングに現れた。

だが、私の心をざわつかせたのは、彼女の髪から、そして肌から漂う見慣れない香りだった。

それは私の知っているシャンプーの匂いでも、ボディソープの香りでもなかった。

ふとした瞬間に鼻をかすめる甘く強い香水の香り──。

まるで彼女の身体に染み込んでしまったように、シャワーを浴びても消えなかった。

「誰の香りだ？」

その問いが、頭の中で何度も繰り返された。

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思い返せば、妻の行動にはいくつもの違和感があった。

休日に増えた「友達との食事」、帰宅後すぐに浴室へ直行する習慣、そして知らぬ間に買っていた新しい下着。

それらすべてが、私に「裏切り」を想像させる断片だったのだ。

だが、はっきりとした証拠は何もない。

ただの勘違いかもしれない、という思いが、私を無理やり落ち着かせていた。

しかし、“消せなかった香り”がその迷いを打ち砕いた。

━━…

ベッドに横になったとき、妻から再びあの香りが漂ってきた。

知らない誰かの存在を、香りが告げていた。

「これは偶然じゃない」──胸の奥で確信が芽生えた。

どれだけシャワーで洗い流そうとも、彼女の心まで洗い流すことはできない。

香りは、裏切りが確かに存在することを私に伝えていた。

◆◇◆

怒鳴りつけたい衝動を抑えながら、私は考えた。

「香りだけで、妻を問い詰められるのか？」

「もし離婚や慰謝料を考えるなら、これだけでは弱いのでは？」

心は不安で揺れ動き、眠れない夜が続いた。

何より辛かったのは、目の前にいる妻を信じたい気持ちと、香りが突きつける現実との間で引き裂かれることだった。

━━…

やがて私は、自分ひとりではどうにもできないと悟った。

ネットで調べると、「香水の匂い」は浮気調査の典型的な相談内容だと知った。

探偵事務所なら、法的にも有効な証拠を集めてくれる──。

実際に無料相談をしてみると、担当者は落ち着いた声で言った。

「匂いは重要なサインです。

ただし、それだけでは証拠になりません。

調査を行えば、写真や映像で確実な裏付けを取ることができます」

その言葉を聞いた瞬間、重くのしかかっていた不安が少し軽くなった。

「もう一人で抱え込まなくてもいいんだ」──そう思えたのだ。

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妻が帰宅後すぐに浴びた熱いシャワー。

それでも消えなかった“見知らぬ不倫の香り”。

それは、疑念を確信に変えるサインであり、私を行動へと駆り立てた証拠だった。

裏切りを香りで知ることになった夜を、私は一生忘れないだろう。

だが同時に、その夜が「未来を取り戻す第一歩」になったことも事実だ。

━━…

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